労働条件通知書との差額を求め提訴

日産自動車㈱(神奈川県横浜市、内田誠代表執行役社長兼最高経営責任者)で6カ月半働いた労働者が、賞与に関する期待権を侵害されたとして、140万円の支払いを求めた裁判で、東京地方裁判所(布施雄士裁判官)は請求を全面的に棄却した。労働者は採用通知書に記載された想定年収から、賞与を受給する期待権があると主張した。同地裁は、賞与は労使交渉を経て決定しており、示した年収額は「『想定』の域を出ず、一定の給与を確定的に表示したとはいえない」と退けている。

労働者は平成30年6月に同社から「採用通知書」の交付を受けた。同通知書には月額賃金48万円+30時間分の固定残業代(11万5110円)、賞与有り(支給時期、金額などは都度労使交渉で決定)、想定年収1036万3620円などの記載があった。

両者は同通知書の内容で雇用契約を締結し、労働者は同年8月16日から31年2月末まで、同社の先進技術開発センターでアシスタントマネージャーとして勤務した。

同社は30年12月、冬期賞与として33万7600円を支払った。労働者は示された想定年収から、6カ月半勤務した場合は174万5412円の賞与支払いを受ける期待があったとして、既払い額との差である140万7812円の支払いを求め、裁判を起こした。

同通知書の想定年収の項目には「賞与は前年度の業績と直近半期の出勤率に応じて支給する。上記の額はそれぞれ100%勤務した場合の理論値で、実際の年収とは異なる」との注意書きがあった。また、賃金規程は「賞与、その他臨時に支給する賃金に関しては、その都度これを定める」としていた。

同社は日産自動車労働組合との間で、31年度の夏期・冬期賞与を1人平均108万6200円とする協定を締結した。内訳は業績評価に基づく成績分が1人平均43万4480円、月額賃金に係数(1.83)と出勤率を掛けた比例分が1人平均65万1720円だった。

夏期賞与の出勤率算定期間は30年10月1日~31年3月末、冬期賞与は31年4月1日~令和元年9月末まで、業績評価期間は夏期・冬期ともに30年4月1日~31年3月末とした。支給対象は労使交渉日に在籍している従業員のみと定めた。

同地裁は賞与の期待権はなかったと判断した。同通知書や賃金規程には労組との交渉を経て金額を決定するとしており、法律上保護されるべき具体的な賞与額に対する期待を認めることは困難と指摘している。想定年収については「『想定』の域を出るものでなく、一定の給与支給を確定的に表示したとはいえない」とした。

交渉結果を労組が機関紙で周知している点も重視した。賞与の支給に関する状況を知ることに特段の困難はなかったとしている。労働者は採用通知書には業績と出勤率しか減額事由は定められておらず、労使交渉日の在籍は条件になっていないと主張したが、認められなかった。

【令和2年12月15日、東京地裁判決】